3.12.2013

取れない仮面 夢野久作「少女地獄」

ペルソナ、という言葉を真っ先に思い出した。
仮面。
人はみな仮面をつけて過ごしている。
けれど、普通はつけたり外したりしている。


***

例えば、全く自分を知る人のいない場所に立って、「私は実は遠い地方の資産家の娘で、名門の学校を出て、一流企業で働いたけれど、自分探しのために旅しているのです」とでも吹聴してみる。

多分それを信じる人はいるだろう。疑う必要もないので。
「すごいね」「羨ましい」とほめそやされるだろう。

人は承認されると快楽をおぼえる。
快楽のために、嘘に嘘を重ねていく。
この居心地のいい場所に、ずっといたいと思うから。

だがそれは長くは続かない。
嘘は絶対にいつか綻ぶものだ。
まったく関係がないと思われる場所でさえ、合わせようとした辻褄の合わないところはむくむくと顔を出してしまうのだ。

嘘が暴かれる前に、退散するか。
嘘でした、ごめんなさいと降参するか。
何が何でも嘘をつき通すか。
もしくは、時折矛盾をちらつかせて、気づかれるかどうかのスリルを味わうか。

嘘をつき続けるのは相当の頭脳労働だ。
それこそ二手三手、もっと先を読んで行動しなければ見破られてしまう。常に策を弄する。そのうちに、多数を相手することは不利になり、個別に話し込んで信じさせる。
ひどい疲労を伴うのに、快楽が勝って止められない。

なぜ、自分のありのままの姿から目を背ける。
なぜ、理想の自分でなければいけない。

自分に否定された自分。
張りついて取れなくなった仮面。
それを無理矢理はがすことがどういうことなのか。

もう、地獄からは抜け出られない。

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